今回は代表的な3つのシラバスについて取り上げました。
<文法・構造シラバス>
文法や文構造、語彙・表現などの言語の構造に着目したシラバスで、文法シラバスとも呼ばれるものです。通常簡単な文型からより複雑な文型を、使用範囲の広い文型から特化した文型へと並べられています。
このシラバスをもとに作成された代表的な教科書として「みんなの日本語」「大地」などがあります。
平易な文型や語彙から複雑な文法へと導入するので初心者にとって学習しやすい点がメリットとして挙げられ、現在使用されている日本語教科書の多くがこのシラバスを採用しています。
ただ多くのデメリットが指摘されています。
デメリットですが、平易な文法を積み重ねていく反面不自然な文や会話が展開されてしまいがちな点があります。
次に形だけに注意がはらわれるため、言語運用能力が身につけにくい点があります。復習のために教科書を見直しても形の説明に終始しているため、どのような場面で使用可能かが分かりにくく、その点を補うために教師が文型導入のために場面提示を試みると準備に多くの時間が割かれてしまうデメリットもあります。
続いて文法の平易さに焦点が当てられるため、日常での使用頻度は注意がはらわれていません。したがってすでに日本で生活している学習者には不向きだと考えられます。
さらに平易な文法から積み重ねていくのですが、積み重なっている前提で授業が進められるため学習者が一度欠席するとその後の習得が難しくなってしまう側面もあります。一斉授業との組み合わせはお勧めできません。
<場面シラバス>
飲食店や郵便局や駅などの場所や場面で行われる代表的な会話に焦点を当て組み立てられたシラバスです。
例えば郵便局で荷物を送る、お金を引き出すためにはどのような語彙や文法が必要になるかを提示する。
場面シラバスの利点としてはどんな場面で文法や語彙がどのように使われているのかがわかりやすい点が挙げられます。
さらに学習者の生活に根ざした授業が展開されやすく教室で学んだことがすぐに生かされるため学習意欲を掻き立てられます。
反面、文法や語彙的な難易度は無視されるため、最終的に丸暗記に頼らざるを得ない場合も多々あります。
<タスク・Can-doシラバス>
ある達成すべき学習目標や課題(「買い物に行く」「道を聞く」など)を掲げてそれに沿った文法・語彙項目が並べられており、いわゆる行動中心アプローチに基づいて構築されたシラバスです。何らかの目標が定められており、結果を出すことが求められるのが特徴で具体的には二つの絵の間違い探しや道案内をしてもう1人がきちんとたどり着けるかを試すタスクが考えられます。このシラバスを元に考えられた教科書としては「まるごと」「いろどり」などが挙げられます。
ちなみに僕は「から」や「まで」を授業で扱った際、実際に施設に電話をかけて「何時から何時までですか?」と尋ねて施設の営業時間を尋ねるというタスクを行いました。
*店だと迷惑なので公共施設にしましょう。
第二言語習得理論に基づいた効果的なシラバスで、学習者は多くの理解可能なインプットや修正を迫られ、自身のアウトプットのフィードバックが得られるため、効果的なシラバスであることが指摘されています(ellis,2008)
一方で、タスクシラバスが本当に初級の段階から導入可能かは意見が分かれています。複雑な文法や語彙が含まれる場合、場面シラバス同様、丸暗記に頼らざるを得ない面も考えられます。
<機能シラバス>
「断る」「誘う」「お礼を言う」などのコミュニケーション上の役割に着目したシラバスで、文法シラバス、場面シラバス、Candoシラバスと組み合わされて使用されています。
<話題シラバス>
「大統領選挙」「温暖化」など社会的、トレンドの話題について取り上げそれを扱うにあたって必要な文法や語彙、表現を集めたシラバス。
<人気記事>
複合語とは何か 〜複合名詞の組み合わせについて〜
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<参考文献>
「日本語の習得を支援するカリキュラムの考え方」