東芝の一時期の赤字7000億円、アベのマスクで500億円拠出。
大企業や官僚組織のこういった施策を見て「バカだなぁ」と思ったことはあるでしょう。
しかし、大企業の役員も従業員も政府高官も高学歴でとても頭の良い人たちのはずです。
実際会って話をするととても理解力もあってコミュニケーション力の高い人が多いです。
にもかかわらず、相次ぐ大企業、官僚組織の失態、愚策の原因は人材の問題ではなくその構造にあるのです。
現在の多くの組織はピラミッド型のトップダウン式で、判断に時間がかかります。トップに行けば行くほど情報過多の状態で処理に時間がかかり、判断が遅くなります。
情報過多の中上層部も社員の要望全てを叶えるわけにもいかないので、その多くが却下されることになります。
社員としては会社を変える意見を出しても全く聞き入れられなければ改善しようとするインセンティブがなくなっていきます。
そうして小さな澱みが溜まっていき、沈殿し、硬直化するのがピラミッド型組織の特徴です。
多数決で決まったことというのは波風が立たない当たり障りのない決定になりやすくしかもそれに違を唱えるのは勇気がいることです。
もし失敗でもすれば集中砲火を浴びるし、責任を取らされるかもしれません。
決まったことに従っていれば責任を取らされることもないし、給料ももらえるので逆らう意味はなくなります。
また組織というものは大きくなればなるほど顧客の顔は見えにくくなり、自然と上司の顔色ばかりを伺うようになってしまうため真のニーズが汲み取れなくなります。
このようにピラミッド型組織というものが下した意思決定は質が低く、かつ反対しにくいものなのです。
そんな欠点のあるピラミッド型組織になっているのでしょうか。
それを知るためには組織変遷を辿るとよく理解できます。
従来型の組織は以下のように段階的に発展してきました。
・衝動型組織(レッド組織)
・順応型組織(アンバー組織)
・達成型組織(オレンジ組織)
・多元型組織(グリーン組織)
詳しく見ていきましょう。
・衝動型組織(レッド組織)
部族社会の首長制度などがこれに該当し、現在でもマフィア組織などがそれに該当し、頭の一声でグループや組織の方針が変わります。
ボスはいつも残虐性を示し、罰を与え、恐怖によって服従させなければなりません。
・順応型組織(アンバー組織)
農耕や家畜化に成功した人類は多くの食糧を保存することができるようになり、やがてさまざまな専門職を養成することができるようになりました。
日本でいうと士農工商などの階級制度などがそれに該当します。
レッド組織がトップにだけ強力な権限があったのに対し、階級を持つ者それぞれに権限があり、かつ教団などで決めたルールが存在し、トップといえどもルールを全く無視することはできません。
現代でも政府機関や官僚機構、軍隊、一部の公立学校などがこれに該当します。
・達成型組織(オレンジ組織)
近代に入り、出資者を募って利益を追求するいわゆる株式会社が誕生しました。
それまでの組織と違い基本的に実力主義です。
生まれ持っての家柄や階級などで役職を決めていると利益を追求できないため、役職も時にボスも入れ替わります。
個人中心のレッド組織と組織中心のアンバー組織に比べて地球規模のことを考える余地が出てきたのがオレンジ組織で、多くの株式会社特にグローバル企業がこれに該当します。
・多元型組織(グリーン組織)
オレンジ組織が台頭してくることで環境問題や格差問題など様々な社会問題が生じてきました。
オレンジ組織が台頭してくることによって引き起こされた社会問題を解決する組織として利益ではなく社会的イシューの解決や組織文化を重視する組織が出現しました。
これが多元型組織(グリーン組織)で、社会起業やNGO、NPO活動などがこれに該当します。
資本家からお金を寄付してもらったり、税制優遇を受けることで活動の糧としており、企業のような役員などの序列や上下関係はなく、一人一人の職員に比較的フラットで裁量権の与えられているのが特徴です。
以上、従来型の組織について簡潔にまとめました。
組織形態は時代とともに進化してきたのですが、前身の組織が滅んだわけではありません。
オレンジ組織の中にもグリーン組織やレッド型組織があるということもあり得ます。
どれが絶対的に優れているということではなく、時代や環境に応じて適した組織形態があるということで、例えば部族間同士の争いが絶えない環境であればレッド型組織が適任でしたが、資本主義社会においてはオレンジ組織が最適だったということです。
グリーン組織を除くと全てピラミッド型組織ですが、特にグローバル企業は商品を作る際、会社のようなしかも大企業のような大きな組織で一人一人が違う考えや違う行動を思い思いにとっていたら統制が取れなくなってしまいます。
したがってこれまでの組織ではピラミッド型組織が最も適した組織形態だったのです。
しかし、現代の変化の激しい時代になると意思決定に遅れが出る組織は死活問題で、冒頭のような問題、つまり
・上層部まで情報が行くのに時間がかかり判断が遅くなる。
・組織が大きくなると顧客の顔が見えなくなりニーズが汲み取れなくなる。
・責任の所在がわからず時に不合理な決定でも決定が覆らなくなる。
というようなことが起きるようになります。
しつこいようですが、全てを上層部が判断しなければならない体制というのは意思決定に時間がかかるのは明らかに時代にそぐわなくなってきているのです。
グリーン組織はオレンジよりは一人一人の職員に裁量権があると言っても非営利組織であり、利益を積み上げて資本投下して事業を拡大するのは限界があります。
では現在はどのような企業・組織形態が最適解なのでしょうか。
細かな役職もなく個人に責任と意思決定権があり、かつ利益も追求できる、そんな夢のような組織形態が存在するのです。
それが本書で扱っているティール組織(進化型組織)です。
オレンジ組織までは人間を機械と捉え、組織の方針を決めるのはあくまで経営陣ですが、ティール組織は組織を生き物であると捉え、社員一人一人が情熱と自主決定権を持つのです。
ティール組織の理念は以下の3つです。
・セルフマネジメント(自主経営)・・・自ら目標を掲げ組織運営に関わる
・ホールネス(全体性)・・・個人のありのままを尊重し、受容する。
・エボリューショナリーパーパス(進化する目的)・・・組織の存在目的を追求し続ける。
つまり、個人が個人の欲求を探求し、主体的に行動し、組織は個人の意見や個人を尊重して意見を取り入れて社会的意義のある仕事をなしていく、そんな理想的な組織形態がティール組織なのです。
イメージとしてはグリーン組織の自主性とオレンジ組織の収益性のいいところをそれぞれ取り入れたシステムなのです。
これだけ言われても何のことかわからないと思うので順に詳しく具体例を上げながら説明します。
FAVIはフランスの製造業で、元々水道管の蛇口を作るメーカーとして創業しましたが、現在は売り上げの大半を自動車製造用のギアボックスフォークを占める、電子機器メーカーへと転身を遂げました。
製造業といえば筋金入りのピラミッド型組織のイメージですが、FAVIも御多分に洩れず営業部門、製造部門、技術部門、人事部門、企画部門と部門別に別れていました。
以前は顧客からの注文はまず営業部に届いており、企画部が予想される出荷日を営業部に指定し、いつどの機械が必要になるか計画し、運転期間を確保、人事部がその期間と注文数に従って作業員を配置するという流れでした。
当然、現場作業員たちは注文表の内容も、特定の日に自分がこの商品を割り当てられているかも、この商品でどのくらい利益が出ているかなども知る由がありませんでした。
他の多くの工場と同様にただ決められた日と時間帯に出社し、言われるままに作業をしていたのです。
デスクワーク組も然りで工場の状況をほとんど把握しておらず、注文に間に合いそうかどうかそれぞれ部門ごとにブラックボックス化されていたのです。
しかし、トップが変わってティール組織を導入決定後、部門と役職を全て廃止し、代わりに15〜35名のチームを21つくりました。
営業部や人事、製造部などの仕事はそのチームに振り分けられました。
ホワイトカラーのデスクワークと工場の製造員という括りなくなり、21チームの誰かがそれぞれの仕事を担当することになりました。
今まで工場員たちがホワイトカラーの仕事をするようになり、反対にホワイトカラーの従業員が工場の仕事をするようになり、上から指示を待つ、出されるということがなくなりました。
現場とデスクの垣根がなくなったおかげで見えるかが進み、全員が「発注を受ける→人員を配置する→工程を組み製品を生み出す→顧客に納品する」という流れを理解し、共有できるようになったのです。
仕事のための部署ではなく部署のための仕事が大量にあったのですが、部署がなくなったことで会社にとって有意義な仕事に集中できるようになりました。
定期的な無駄なミーティングはなくなり、代わりに現場で
「商品単価を1セント上げるためにはプロセスを改善したり、生産性をあげたりできないか」
というような話し合いが日々現場で行われているということです。思いついたことはミーティングの時には忘れているもので、すぐにその場で話し合ったほうが得策です。
まさに自主経営、従業員全員が経営者になったのです。
その結果、現在ギアボックスの市場シェア50%を誇るまでになり、利益率もトップクラスで給与も業界水準の遥かに上で社員の離職率ゼロという驚異的な数字を誇っています。
さらに過去25年間顧客への納期に遅れたことが一度もない業界の優良企業として知られ、多くの競合他社が人件費の安い中国に拠点を移す中、唯一欧州に拠点を置き続けて従業員の雇用を守った伝説的な会社なのです。
むしろ、従業員たちは競合他社や自社の財政状況についても知っており、中国との競争にさらされている中、効率化を図らなければ競争に敗れ自らの職を失うという事実も従業員同士で共有されています。
製造業といえば低賃金労働のブルーカラーに支えられているというイメージがありますが、そんな定説を覆す画期的な組織改革といえます。
社員も自分が主体的に考えて改革し、無駄を省くような工夫をチームに提案していけば昇給も待遇アップも望めるので自然と前のめりになって仕事に臨みます。
ピラミッド型のように意見を言っても聞き入れらない、上から現場を無視した指示が降りてくると言ったこともないので改善するための議論が活発に行われます。
ティール組織を導入し、みんなが主体的になって創意工夫を凝らし、日々改善を重ねている組織と
「一生懸命やっても給料は変わらないから勤務時間無難に終わらせることだけ考えよう」
従業員の大半がそう思って働いている会社と比べたらどちらが全体的な業績が上がるのかは自明です。
日本でもブラック労働や外国人技能実習制度など安い賃金で奴隷のように働かせている企業が深刻化してきていますが、きちんとした制度設計をすれば収益が上がる構造を作れるのはFAVIのティール組織が証明しています。
低賃金で強制的に働かせるというのは従業員のためにも会社のためにもならず、社員のモチベーションを上げることが肝要になってくるのです。
その社員のモチベーションを高めるのがティール組織の自主経営の理念であり、それがひいては会社全体の利益や存在意義につながるのです。
ティール組織を導入している会社によっては社員が機械社屋のデザインやデスクや椅子の種類まで決めることができるということです。
さながらスタートアップ企業の社長のように自分のオフィスをデザインできるため自分の会社、オフィスであるという実感が社員全員に行き渡ることでしょう。
ここであなたはある疑問が湧いたのではないでしょうか。
つまり、現場で多くの意見が出るのはいいが、それを全部聞き入れていたら大変じゃないかということです。
確かに全社員が数百万もする機械や設備を次々に要求してきたら、いくら収益せいが高いティール組織とはいえ破産してしまいます。
しかし、その心配はありません。
ティール組織にはある機能がついており、それが社員の意見を調整する機能を果たすのですが、ちょっと長くなったので次の記事に譲ります。
次回は多くの意見を調整する機能とは何か、日本語学校での応用は可能かについてまとめようと思います。
それでは!