なぜ日本語学習者が形容詞の定着が悪い理由と対処法|日本語3.0

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なぜ日本語学習者が形容詞の定着が悪い理由と対処法


日本語教育に携わっている教師であれば学習者の形容詞の活用変化の定着の悪さに直面したことはあるでしょう。

僕も日本語教師として教壇に立っていた頃、中級の後半レベルになった学習者の間でも「暑いじゃない」「好きくない」などの誤用が見られました。

このような形容詞の誤用を避けるため形容詞を使用する際は否定形ではなく対義語で対応しやすいという研究結果もあります。

関西外国語大学の小村氏「対義語を使ったい形容詞の新しい指導方法」によると形容詞の運用について以下の実験結果が得られました。

(実験対象)
関西外国語大学の留学生60人、1年から1年半の日本語学習経験

(実験方法)
形容詞の絵カードを英訳付きで見せて受験者がそのカードを発話し、直後にその形容詞の反対の意味を持つ形容詞を発話させる。

例えばBusyという形容詞カードを見せた後で「not busy」を見せて形容詞の否定形「〜くないです」を用いて「忙しくないです」と答える学生と「暇です」と答える受験者の数を比較する。

もちろん、「〜くない」を使って否定文を作りなさいと言う口頭での指導は一切行わずカードの指示に従って発話することのみを伝える。

(調査結果)
67%の受験生が「〜くない」を用いず、対義語の形容詞を使って発話した。また、否定形を用いた受験生の中には「好きくない」「楽しいじゃない」「忙しいじゃない」と言う誤答も見られた。


このように日本語学習者にとって形容詞の定着が悪く、活用を避けられる理由はなんでしょうか。


<なぜ学習者は形容詞の否定形使用を避けるのか。>
考えられる理由は次の3つです。

1、種類と活用が複雑
2、形容詞の導入方法に問題
3、形容詞が持つ言葉の特徴

順に見ていきましょう。

1、種類と活用が複雑

日本の形容詞の種類は「い形容詞」と「な形容詞」の2種類があり、かつそれぞれ活用方法が違っています。

例えば「寒い」の過去否定形を使う場面に出くわした場合、学習者は「寒い」がい形容詞かな形容詞かを見極め、次に「い形容詞」の現在形か過去形を判断し、さらに肯定系と否定形の形も思い出さなければなりません。

瞬時にこれだけの判断を求められるため誤用が多発し、定着に結びつかない学生が多いと考えられます。


<形容詞の導入方法に問題>

次に考えられるのが形容詞の導入方法です。

一般に広く使用されている「みんなの日本語」であれば8課で「い形容詞」と「な形容詞」を同時に導入し、さらに否定形、過去形も導入します。

加えてい形容詞の術後分の否定形導入ではその活用形式の定着に重点を置いた練習問題が多く散見されます。

例)日本の食べ物は安いですか?
・・・いいえ、(安くないです)。とても 高いです。

1)あなたのパソコンは新しいですか。
・・・いいえ、(  )。古いです。

2)イギリスは 今 暑いですか。
・・・いいえ、あまり(   )。

「あなたのパソコンは新しいか」と聞かれてもその学習者によって違うでしょうし、イギリス人でなければ今暑いかどうかはわからないでしょう。

このように「みんなの教科書」では学習者が否定形の意味を持つ文を発話しなければならないという状況設定が曖昧で、なんのために否定形の形容詞述語を使わなければならないかがわからない無目的な文法練習になっています。


3、形容詞が持つ言葉の特徴

形容詞は動詞と違い感情や物事の特徴を段階的に表すことが可能である点が挙げられます。

つまり、動詞「食べる」の否定形は「食べない」以外はあり得ませんが、「面白い」には「面白くない」から「つまらない」という段階があり、対義語が使用可能なのです。

動詞には「するか」「しないか」を表すものですが、形容詞は対義語が換言可能であるため、複雑な活用変化を経て誤用を発するより、対義語を使用するという判断をする学習者が出てくると考えられます。

<形容詞の否定形を定着させるための指導法>
機械的な文法練習を避け、学習者が自然な状況設定で言いたい状況で言わせるようにするにはどうすればいいのでしょうか。

同じ教室内での練習は以下のようなものが考えられるでしょう。

教師 : 教室は暑くない?(寒くない?)
学習者 : いいえ、(暑くない)です。

もちろん、その時の気候によっては通用しなくなりますが、春先や秋口で特に暑くも寒くもない日であれば自然な文法練習になるはずです。

場合によっては板書して、35度とかいて「暑いです」と言い、8度と板書して「寒いです」と発話したのちに寒くも暑くもなさそうな気温「21度」と板書して、「暑いですか?(寒いですか?)」と問いかけて「暑くないです(寒くないです)」を引き出すという手段もあります。

このように教師が対義語が使用しにくく中間的な程度を発話したくなる場面を設定し、学習者に自然な文法練習を促すことで形容詞の定着は飛躍的に良くなると考えられます。


<参考文献>
「対義語を使ったイ形容詞の新しい指導方法」
https://core.ac.uk/download/pdf/147852419.pdf

2020.09.19 | コメント(0)
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