読後 「外国語学習の科学 〜第二言語習得論 とは何か〜」 ~子どもをバイリンガルに育てるためには〜|日本語3.0

インフォメーション

読後 「外国語学習の科学 〜第二言語習得論 とは何か〜」 ~子どもをバイリンガルに育てるためには〜


今回は書評で取り上げる本は「外国語学習の科学」です。



『 外国語学習の科学 』 白井恭弘 〜第二言語習得理論に沿った最適な語学学習法とは〜
http://hayato55.com/article/188043312.html?1603947969

どんな学習者が外国語学習に成功できるか、どんな方法を使えば外国語習得に成功するのか第二言語習得理論をもとに考察されています。

科学的な内容が平易に解説されているのでこれから外国語学習に取り組む人やなかなか語学を習得できない人、語学教師で指導に悩んでいる人にとっては有意義な内容です。

幼少期における語学習得方法と成人期の語学習得方法、それぞれ分けて解説します。

というのも幼少期における語学習得と成人の語学習得は根本的に異なるのです。

その理由についても触れながら解説を試みていきましょう。


1、バイリンガルを育てるためには

まず外国語学習に最も大きく影響するのが年齢です。

子供は語学の天才でどの国のどの場所に生まれても正確にその国の言語を習得します。

しかし、ある一定年齢を超えるとネイティブ並みの外国語能力を身につけるのはほぼ不可能だと言われています。

臨界期と言われ、年齢を超えると語学の習得が困難になるという年齢で思春期が始まる年齢である12、3歳だと言われています。

なぜ年齢の影響がそんなに大きいのかといえば大人になることで脳の構造そのものが変わる説や、物事を分析的に捉えるようになるため子供のように自然に習得するのが難しくなるなど言われています。

その中で最も有力な説は母語干渉だと言われています。

つまり、母語を習得することで外国語を母語を介してのみ習得するようになるのです。

例えば日本人の例で言えばLとRの違いについてです。

日本人の赤ちゃんでも生後数ヶ月はLとRの違いを判別できますが、生後6ヶ月から一年になるとその能力は急激に失われます。

なぜそんなことがわかるのかと言うと実験結果があるのです。

ワシントン大学のパトリシア・クールらが行った実験がそれです。

まず、赤ちゃんに「ra,ra,ra,ra」と言う音を聞かせ途中で「la,la,la,la」と言う音に変えます。

それと同時におもちゃを出す、と言うことを繰り返すと赤ちゃんは音が変わるとおもちゃが出ると察し、音が変わるとおもちゃが実際に出てくる前におもちゃの方向を向くようになります。

これが1歳になる赤ちゃんだと「ra」から「la」に音が変わったと判断できずにおもちゃが出てくるまで気づかないのです。(本書p43)


不便に思えますが逆に母国語と無関係の音は全て雑音として処理し、効率よく母国語の音声を聞き取り習得するための優秀な脳機能とも言えます。

一方、幼少期に外国語が習得しやすいからと言って幼少期から外国語を聞かせていれば母語や脳に悪影響がないかと不安に思う人もいるでしょう。

外国語を学ぶと日本語がおろそかになると言う言説もありますが実際のところどうなのでしょう。


これについてもクールは実験検証を行っています。

生後9ヶ月のアメリカ人の赤ちゃんに1回25分を4週間(計5時間)中国語の本を読み聞かせたり中国語のおもちゃで遊んだりしました。

同じく生後9ヶ月の中国人の赤ちゃんに同じ時間、こちらは英語の本を読み聞かせ、英語のおもちゃで遊びました。

するとアメリカ人の赤ちゃんは中国ネイティブ並みの聴解能力を示し、反対に中国人の赤ちゃんはネイティブ並みの聴解能力を示したものの、いずれの赤ちゃんもその実験によって母語の聴解能力は一切落ちなかったと言うことです。(本書p46実験より)

普段はずっと母語漬けであれば1ヶ月5時間程度の外国語を聞いても母語には影響は出ないようです。

反対に1ヶ月5時間の聴解だけで外国語を識別できる赤ちゃんの能力は驚嘆すべきでしょう。

少ない時間で外国語を習得でき、母語に支障もきたさないのであれば幼少期のうちに外国語を聞かせていた方が良さそうです。

また、その際母語とできるだけ遠い言語を聞かせる方が音に対する認知能力は高くなると言うことです。

バイリンガル同士を集めて音認知力テストを行ったところ、英語とスペイン語のバイリンガルよりも英語と中国語、英語と韓国語のバイリンガルの方が認知力が高いと言う結果が出たのです。

先ほど母語習得により母語に関係のない音は雑音として処理するため多言語の習得が難しくなると述べましたが、裏を返せば様々な言語を聞かせれば様々な外国語の音を言語として処理する能力が高まるのです。

これは新たな外国語を学習するときに大変優位に働くと考えられます。

母国語と遠い外国語を聞くことで聞き取れる音の範囲が広がり、その結果さらに多くの外国語習得に成功する可能性があるのです。


僕自身も日本語学校で日本語を教えている時期がありましたが、トリリンガルのネパール人学習者の方が他のモノリンガル学習者よりも日本語の聞き取り能力や会話能力が明らかに高かったのは印象に残っています。

ネパールはネパールの中で多くの部族が存在し、それぞれの言語も存在します。

そのためネパール人は生まれながらにネパール語、自身の所属する部族の言葉、ヒンドゥー語、英語と多言語に接しており、このことが日本語の聴解能力にも生きるのだと考えられます。


考えてみればアジアにも中央にも幼少期から複数言語に触れ、4〜5ヶ国語ペラペラに話せる人も多くいるので「幼少期に外国語を聞かせると母語に悪影響が出る」という言説は杞憂に過ぎないでしょう。


ここまでは臨界期を迎える前の外国語学習について話しましたが、おそらく皆さんの関心事は成人してからはどのように学習を進めればいいのかということでしょう。

それについては次回触れようと思います。


2020.08.27 | コメント(0)
コメントを書く

お名前

メールアドレス(非公開)

ウェブサイトアドレス

コメント

この記事へのコメント
テキストや画像等すべての転載転用販売を固く禁じます
Copyright © 日本語3.0 All Rights Reserved.