日本語の習得を支援するカリキュラムの組み方 C 〜4つのシラバス〜|日本語3.0

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日本語の習得を支援するカリキュラムの組み方 C 〜4つのシラバス〜


先日、言語研究家&教育コンサルタントの村上氏が
ツイッターで以下のようなアンケートを実施していた。




自身のツイッターアカウントのフォロワー数を公式な数字と照らし合わせ、
国内と海外でそれぞれ「みんなの日本語」を使っている人の割合を算出し、
興味深い結論を導き出している。

「つまり、今学期『みんなの日本語』を最も多く使っている日本語教師は
 33.23%で1/3にも満たないのです。

 言い換えると、『みんなの日本語』」でしか教えられない先生は、
 回答者の3分の2以上の現場では即戦力となることはできないでしょう」


国策により国内の日本語学習者が増加し、学習者の質も変化したため
現場に適応した様々な教科書が採用されつつあると考えられる。


そうした中で「みんなの日本語」の教え方、文型シラバスで
教えた経験しかなければ多様化する現場には対応できない教師が増えるだろう。


教師も様々な教科書、シラバスについて理解を深める必要があるため
今回はシラバスを分類し、それぞれのメリットとデメリットをまとめた。


4つのシラバス

シラバスを検討する上でそのコースを終えた時何を得て
何ができるようになっているのか学習目標を設定しなければならない。


その上でシラバスを設定するのであるが、シラバスは指導内容(文法や語彙)を
どの順序で教えるのかを表したものであるためカリキュラムよりも詳しく
実践的な内容であるのが普通である。

その順序は難易度や重要度など何を重視するかによって変わるが、
主に市販の教科書の多くは以下に分類されるシラバスによって作られている。

1、文法シラバス
2、語彙シラバス
3、機能シラバス
4、場面シラバス
5、技能基盤シラバス
6、トピック・シラバス
7、スキル・シラバス

1、文法シラバス

文法シラバスは難易度順、つまり簡単な文型から難解な文型へと
配列されたシラバスである。

また、汎用性が高い項目から汎用性が低く、書き言葉の表現へと並べられ、
似ている文型や関連性が高いものは同時に扱う。

代表的な教科書は「みんなの日本語」である。



日本語シラバスの中では最も主流とされるものであるが、
その分多くの問題点も指摘されている。

例えば「みんなの日本語」では文型を軸にそれと共起する語彙を
選ぶため、語彙同士の関連性が低く連想させにくいのである。

次に文型重視であるため、不自然な会話や文が使用されていることも
少なくない。

他にも文法シラバスは
第二言語の理論や習得順序が考慮されていないことも指摘されている。

例えば
日本語ではイ形容詞の活用はナ形容詞や動詞の活用より習得が遅れるが(Kanagy,1994)
文法シラバスの代表的な教科書である「みんなの日本語」では
イ形容詞とナ形容詞は同時に導入されている。

イ・ナ形容詞に関して否定形は活用の種類が困難で習得が遅れるため
否定形より反対語が使われる傾向があるという研究報告もあるが、
やはり文法シラバスでは全て同時に導入されている。


文法シラバスの最大の問題点として、言語は1つ1つの文型を積み立てて
いくことで習得されると言う前提で構築されている点である。

この前提が間違っていることは多くの習得研究からも明らかにされている。

これまでの研究では第一言語、第二言語習得ともに学習者はインプットから
使用頻度や文脈から仮説検証を繰り返し、学習者それぞれの中間言語を作り、
最終的に言語を習得していくと言われている。

その道のりは平坦ではなく既習のルールを誤用し、訂正していくと
考えられるため積み重ねではなく繰り返し授業で触れることが必要なのである。


2、語彙シラバス

語彙シラバスとは語彙の頻度と汎用性を元に組んだカリキュラムである。

導入する語彙ごとに意味や助詞、コロケーションを紹介する。

近年大規模コーパスを用いた語彙頻度リストの構築が始まっており、
日本語教育の目的に合わせた語彙表が構築されることが期待される。


3、機能シラバス

機能シラバスは依頼、勧誘、助言、断りなど言語が果たすコミュニケーション上の機能を
元に構築されたシラバスである。

文法シラバスではコミュニケーション能力がつきにくいとして1970年代に提唱された。


機能シラバスの利点としては場面シラバス、文法シラバス、トピックシラバスなどと
組み合わせることが可能である点である。

例えば依頼の表現であればホテルへサービスを依頼するときの表現、
郵便局で郵送の依頼をする時の表現など場面シラバスと組み合わせることができる。


4、場面シラバス

場面シラバスは銀行、病院、郵便局などコミュニケーションを行う場面を設定し、
そこで行われる代表的な会話例を取り上げて構成するシラバスである。

例えば郵便局なら荷物の郵送や公共料金を支払う場面を
取り上げるということが挙げられる。


場面シラバスの利点としては場面ごとにその文型がどのような役割を果たすのかが
はっきりしている点である。

そのためどの文型がどのような役割を果たすのかが明確で学習者にとって
わかりやすいと考えられている。

また、学習者の日常に根ざした導入ができるため有用である。

一方、デメリットとしては代表的な文型が何かわかりにくい場面もあるため
文型や語彙の選択が難しい点が挙げられる。

例えば「学校」ではどのような会話が代表例と言えるのか選定が難しい。

代表例から漏れた文型や語彙は学習が続いても未習のまま
という恐れもある。

5、技能基盤シラバス

技能基盤シラバスは場面シラバスから発展したもので特定の場面で
必要とされる言語技能を選出し、配列したものである。

具体的には面接の場面や企業における外国人向け研修などが挙げられ、
場面シラバスよりも専門的な内容である。

場面シラバス同様、学習者にとって必要な項目が選出されるため
有用ではあるが、反面場面がかなり限られているため学習者の運用能力向上には
必ずしも繋がらないと言われている。

6、トピック・シラバス

トピックシラバスは家族、天気、数字など特定のトピックに基づいて
構築されるシラバスである。

初級では家族、趣味、食べ物などであり、中級から上級にかけては
政治、経済、日本文化などがテーマとして挙げられる。

内容重視型アプローチから構築されたシラバスである。

メリットとしてはテーマ別に語彙を導入するため学習者が関連づけて
覚えることができ、かつ学習者のニーズにも比較的合わせやすい点が挙げられる。


一方で語彙によってはどのトピックにも属する語彙やどのトピックとも
関連が薄いような語彙もあるため選定が難しい点がある。


トピックシラバスの利点は関連づけて覚えやすい点であるため
教師が「天気」のトピックだと思っても学習者がそう思わなければ
トピックシラバスの長所が生かされないのである。


7、スキル・シラバス

スキル・シラバスとは特定の技能、例えば読解、聴解、会話を高めるために
構築するシラバスである。

会話練習では場に適した失礼のない表現を学ぶ、読解ではキーワードを探し、
指示詞の表すものを明らかにする、作文では主張と論拠を分け、起承転結など
心がける点を指導する。


留学試験や能力試験対策などのペーパーテストでは効力を発揮するが
実用性は必ずしも高くない。


以上、様々な種類のシラバスを見てきた。


言うまでもなくシラバスの選択は学習者のニーズややレベル、特性や状況によって
変えなければならない。

また、それらの要因が全て違う学習者が同じ教室で同時に教えなければ
ならないこともあるだろう。


学習者の質が多様化してきた現在、
複数のシラバスを複合的に取り入れることが望ましいと考えられる。

そのためにはそれぞれのシラバスの特性やメリット、デメリットを理解し、
学習者にとってより良いシラバスの構築を目指すべきなのである。

(前回の記事)
日本語の習得を支援するカリキュラムの組み方 @ 〜内容と順番について〜http://hayato55.com/article/184356381.html?1536796686

日本語の習得を支援するカリキュラムの組み方 A 〜「言語習得理論」の点から考察〜http://hayato55.com/article/184372331.html?1537622864

日本語の習得を支援するカリキュラムの組み方 B 〜どんなアプローチがいいのか〜
http://hayato55.com/article/184396324.html?1538895245

<参考文献>
むらログ: 『みんなの日本語』を最も多く使う日本語教師はどのぐらいいるのかhttp://mongolia.seesaa.net/article/461581891.html

「日本語の習得を支援するカリキュラムの考え方」



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2018.09.18 | コメント(0)
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