「やさしい日本語」とは?  〜多様化する学習者に向けての試み〜|日本語3.0

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「やさしい日本語」とは?  〜多様化する学習者に向けての試み〜



在日外国人の数が増加するに連れて
日本語学習者の性質も変わってきている。


留学ビザの学習者と違い、平日は仕事に追われている
定住ビザや家族ビザ、就労ビザ保有の学習者は
日本語の学習時間に十分な時間を割くことはできない。



多様な学習者に合わせた
多様な日本語教育が求められているのである。


そういった背景を考慮して
尾崎(2004)は日本語教育を学校型日本語教育と
地域型日本語教育に分けている。


前者は限られた期間の中、一定時間数の授業を受ける義務があり、
遅刻欠席が累積するとビザの申請に関わる。

そのため
基本的に文型積立型で集中的な教育が可能である。


一方、地域型は主にボランティア団体によって運営されており、
学校型のような契約はない。


そのため、教師も学習者も毎回来れるわけでもなく
授業時間も十分に確保できない。


学校型の教育をそのまま地域型に適用するのは
学習者に負担を強いることになり現実的ではない。


その一つが庵が提唱する「やさしい日本語」である。



文法項目や語彙は聞いて意味がわかればいい理解レベルのものと
意味がわかりかつ発話できる必要がある産出レベルのものがある。


庵は現行の初級シラバスは全て産出語彙を元に構成されているため
STEP1 とSTEP2と学習項目を絞ることを推奨している(2011)。



STEP1ではまず産出レベルを中心に構成されており、
て形、普通形などの活用形は全て含まれていない。
やさしい日本語1.001.jpeg


Step2に入ると理解語彙も現れる。
やさしい日本語1.001.jpeg

庵の産出したリストには従来の初級シラバスで含まれていた
自他動詞、授受表現、受け身、使役の項目が含まれていない。


それぞれの文法項目ごとに理由を

●自他動詞
自他動詞は日本語の特徴の一つである。

例えば他動詞でも使えるにも関わらず自動詞を使う場面がある。

・お風呂が湧きました。
・ドアが閉まります。

これらの表現は学習者にとって非常に理解困難な項目であるが、
微妙なニュアンスの違いを理解できなくても支障は無いと
考えられる。


初級シラバスにおいて動詞の自他と直接関係するのは
「〜てある」「〜ている」の区別である。
(「〜てある」と共起するのは他動詞で、「〜ている」と
 共起するのは自動詞)


中俣(2010)は「名大会話コーパス」「日本語話し言葉コーパス」
「現代日本語書き言葉均衡コーパス」で
「〜てある」「〜ている」の全用例を調査した。

結果、「てある」に前接する動詞はかなり限られており、
全用例の約半数が「書く」であるという。

初級で動詞の自他を集中的に導入することは再検討すべきだろう。


●授受表現

授受表現の「あげる、もらう、くれる」のうち「あげる、もらう」は
多くの言語で同種の動詞ペアが存在することから
学習者にとって理解しやすいものであると考えられる。


しかし、「くれる」に当たる語彙を持つ言語は非常に少ない(Yamada 1994)
導入したとしても使いこなすまでにかなりの時間を要する。

「くれる」は「もらう」で代用できるため、
必ずしも初級の段階で導入する必要性はないだろう。


●受け身

庵は直接・間接受け身のいずれも初級には必要ないと断じている。

理由は直接受け身はいずれも能動文で代用可能である点である。

・田中さんは犬に噛まれた
・犬は田中さんを噛んだ


間接受け身をリストから外した理由としては用例が少ない点を
あげている。


庵は次の書物における受け身の出現回数を調べている。

・阿部謹也「自分の中に歴史を読む」

調査結果によると受け身文の前日用例283例の全てが直接受け身で、
間接受け身の例はなかったということだ。


以上、使用頻度の少なさから考えて間接受け身も
初級で導入する必要はないと述べている。


●使役

使役については岩田・森(2010)に詳細な議論がある。
それによるとコーパスで調べた結果、使役の出現数は極端に少ない。


一つの理由として考えられるのは使役は使用制限がある。
使役者は非使役者よりも上の立場のものでなければ使えない。

・父は娘を買い物に行かせた
・娘は父を買い物に行かせた*


表現に比べて汎用性が高い「〜てもらう」の方を先に教えるべきだと
提案している。


・父は娘に買い物に行ってもらった
・娘は父に買い物に行ってもらった



以上、庵(2011)をもとに「やさしい日本語」の初級シラバス
について見てきた。


多様化する外国人の学習スタイルに応じて
従来のシラバスを適応させようという試みは大いに評価できる。


最後に課題点をのべる。


まず庵の挙げている受け身の項目である。

庵は能動文に代用できるということから
直接受け身文を初級シラバスから外すように提案しているが、
直接受け身は他の文法項目の中でもかなり使用頻度が高い(江田・小西2008)。

コーパス結果.001.jpeg

理由の「〜から」を抑えて会話の中で四番目の使用頻度である。

確かに受け身の概念は使用意義が感じられないかもしれないが、
日本人の会話で頻出である以上、無視できない。


覚えにくく負担になるからという理由で導入しなければ
学習者がネイティブの会話を全く理解できず
日常生活に支障をきたすことになれば本末転倒である。


もう一つの課題点は漢字である。


特に非漢字圏の学習者にとっては一つの文字で何通りの
読み方があり、また組み合わせによってさらに違う読み方になる、
漢字の学習は難解そのものである。


使用頻度に応じて導入順序を変えるのか
学習しやすいよう平易な漢字から教えるのか


今後の課題であると考えられる。


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2018.03.31 | コメント(0)
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