「幼少期から外国語を学ばせていると母語や脳に悪影響がある」
「自我が確立していない段階で外国語を教えると子供がアイデンティティが確立できない」
外国語学習においてあなたも一度はそういった声を耳にしたことがあるでしょう。
「早期の外国語学習は効果的」と、幼い頃から語学学校やインターナショナルスクールに通わせようとしている親御さんも多くいますが、早期の外国語学習を不安視する声もあります。
実際のところどうなのでしょうか。
今回はその説の真偽について解説します。
<外国語学習は母語に悪影響を及ぼすのか?>
ワシントン大学のパトリシア・クールらが「外国語学習が母語に悪影響を及ぼすのか」について実験を行なっています。
生後9ヶ月のアメリカ人の赤ちゃんに1回25分を4週間(計5時間)中国語の本を読み聞かせたり中国語のおもちゃで遊んだりしました。
同じく生後9ヶ月の中国人の赤ちゃんに同じ時間、こちらは英語の本を読み聞かせ、英語のおもちゃで遊びました。
するとアメリカ人の赤ちゃんは中国ネイティブ並みの聴解能力を示し、反対に中国人の赤ちゃんはネイティブ並みの聴解能力を示したものの、いずれの赤ちゃんもその実験によって母語の聴解能力は一切落ちなかったと言うことです。(「外国語学習の科学」p46より)
普段十分な時間母語に触れていれば1ヶ月5時間程度の外国語を聞いても母語には影響は出ないと言うことがわかったのです。
何年も母語に慣れ親しんだ小学生くらいの年齢であれば外国語学習が母語に影響を及ぼすとは考えられないでしょう。
世界的に見れば幼少期から複数言語に触れて成人する国の方が多数派です。
僕は日本語学校に勤めていたことがありますが、ネパールの学生は幼い頃からヒンディー語とネパール語、自分の部族の言葉、英語と複数の言語に触れていた学生が多くいましたが、ネパール語ができないネパール人は見たことがありません。
単一言語を聴いて成人になる日本のような国の方が珍しく「早期の外国語学習は母語へ悪影響を及ぼす」という説が根強いのは日本だけなのではないでしょうか。
<外国語を学ぶ利点>幼少期の外国語学習には学習効率面だけでなく大きなメリットがあります。
つまり、幼少期から外国語を学ぶことで外国語認知能力は高くなることもわかっているのです。
バイリンガル同士を集めて音認知力テストを行ったところ、英語とスペイン語のバイリンガルよりも英語と中国語、英語と韓国語のバイリンガルの方が認知力が高いと言う結果が出たのです。
母語習得により母語に関係のない音は雑音として処理するため多言語の習得が難しくなるのですが、反対に母語を完全に習得する前に様々な言語を聞かせれば様々な外国語の音を言語として処理する能力が高まるのです。
これは新たな外国語を学習するときに大変優位に働くと考えられます。
母国語と遠い外国語を聞くことで聞き取れる音の範囲が広がり、その結果さらに多くの外国語習得に成功する可能性があるのです。
僕の日本語学校時代を振り返ってもトリリンガルのネパール人学習者の方が他のモノリンガル学習者よりも日本語の聞き取り能力や会話能力が明らかに高かったのは印象に残っています。
ネパール人は複数言語に接して育つ人が多いため、日本語の聴解能力にも生きるのだと考えられます。
少ない時間で外国語を習得でき、母語に支障もきたさないのですから大人になって多額の資金を出して留学するよりも幼少期のうちに外国語を聞かせていた方がコスパ抜群の投資と言えそうです。
今は留学などせずともYoutubeで世界中の良質なコンテンツに触れることができます。
まだ幼いお子さんがいる親御さんは母語への影響を心配せずに世界のいろんなコンテンツに触れることで語学だけでなくさまざまな知見を得られる天才に育つかもしれません。
<参考文献>「外国語学習の科学」